ユーフォニアム(ユーフォニウム/ユーフォニュームとも)とは、ピストン式チューバを一回り小さくしたトロンボーンと同じ音域の中低音域を担当する変ロ調の金管楽器。
知名度の低いのが悩みのタネだったのも今は昔、某アニメのおかげで知名度は0.001%から10%くらいには向上したのかな?
ユーフォニアム[Euphonium]の名前の由来(というか意味)は「良い響き」、音の張りや華やかさでは同音域のトロンボーンに劣るが、音の深みと高速演奏時の利便性では凌ぐ(と思います)。
元々はドイツのある楽団のコンサートマスターが自分のソロ演奏専用のため「だけ」に考案(というより発明に近い、まぁ何と贅沢な話もあったものだ)したった一本だけ製作された楽器「ゾンメロフォン」を原型として、
その後ゾンメロフォンを実際に製作した二人の職人がゾンメロフォンを改良して再開発、「金管楽器版チェロ」との触れ込みで世に出ることに、時は19世紀前半。
その後もいろんな改良が加えられた結果、現在のユーフォニアムが完成した訳だが、奏者の技倆・用途・懐具合に併せて幾つかの種類のものがある[推定価格は税別、新品を想定]。
・練習用:音程調整用のピストンは3本、長所は重量が軽いことと音が当たりやすい(初学者でも演奏ミスにリスクが少ない)ことくらい
代表例はYAMAHA:YEP-201(詳細はGoogle先生に訊いて下さい)[振興メーカーの格安品なら¥70,000-ちょっと]
・普及品:音程調整用のピストンは4本(4本目は右手の小指で扱う)、4本目のピストンで低音域の拡大ができるが右手に掛かる負担は激しく、設計上経年による損傷のリスクが高い
代表例はYAMAHA:YEP-321(詳細はGoogle先生に訊いて下さい)[昔は¥198,000-だったんだけど今は¥310,000-、俺も年をとるわけだ]
・高級品:音程調整用のピストンは4本(4本目は左手の人差し指で扱う)、普及品の欠点を解消したもので、おそらく一番使用されているタイプ
代表例はYAMAHA:YEP-621(詳細はGoogle先生に訊いて下さい)[¥400,000-~¥600,000-]
・超高級品:音程調整用のピストンは4本(4本目は左手の人差し指で扱う)、4本ピストンというよりは調の違う2つの3本ピストンの楽器を合体させたもの
変ロ調とへ調の二丁拳銃式を実現した「コンペンセインティングシステム」で普及品や高級品で発生する低音域の拡大時の微妙な音の歪みの発生を防ぐ機能を搭載したタイプ、
代表例はYEP-842S(詳細はGoogle先生に訊いて下さい)[¥800,000-は覚悟して下さい]
・最高級品:音程調整用のピストンは4本(4本目は左手の人差し指で扱う)、変ロ調とへ調の二丁拳銃式を搭載した超高級品でも避けられない緻密な音程のズレを補正する機構を備えた完全無欠のクラスです
代表例はWillson:TA2900BS/GP(詳細はGoogle先生に訊いて下さい)[ただの最高級品でも¥1,360,000-、選定品ともなると…]
・マーチングユーフォニアム:マーチングバンドで使用するトランペット型のタイプ、変ロ調、音程調整用のピストンは3本
写真中央が元ネタ解説者所有のマーチングユーフォニアム(比較対象:左がソプラノビューグル/右がコントラアルトビューグル)[凡そ¥400,000-]
・ユーフォニアムビューグル:ドラムアンドビューグルコーで使用するトランペット型のタイプ、ト調、音程調整用のピストンは3本乃至2本
代表例はDynasty:M376S/Kanstul:195G(Dynasty社の方ならGoogle先生が教えてくれます)[基本的には受注生産、¥500,000-で足りるかな?]
・コンバーチブルユーフォニアム:座って演奏するときには普通のユーフォニアムとして/パレードやマーチングではミサイルランチャーの如く左肩に担げるように
吹き口の場所が可変型になっているタイプ、変ロ調、音程調整用のピストンは3本
代表例はYAMAHA:YEP-201MS(詳細はGoogle先生に訊いて下さい)[相場としては¥160,000-~¥260,000-で見ればいいかと]
因みにユニアちゃんのシンフォニア装備:ユニコーンバズーカは高級品とマーチングユーフォニアムのハイブリッド型、私の見立てでは…
基本価格が¥1,000,000-、ラッカー仕上げと思われるので▲50,000-、ベル部分のピンクゴールド鍍金と彫刻で¥250,000-、シンフォニア装備改鋳のために¥800,000-
ユニアちゃん使用モデル(ここ重要!)ということでプレミア分×10、価値にして¥20,000,000-見当と見ました(私は何の計算をしてるんだろう)
そんなユーフォニアムの使い道は主に3つ、
1.管弦楽(シンフォニーオーケストラ編成・フィルハーモニーオーケストラ編成)における「切り札」として
…もとの歴史が浅いのもあって管弦楽ではまずもって使われることはないが、希に使われることがある。
まず、セルパン/バスホルン/バリトンサクソルン/小バス/フリコルノバッソ/ワグナーチューバを使え、と書かれた楽曲を演奏する際にそれらの楽器を楽団が持ってなければユーフォニアムの出番。
次に、チューバの限界を超える音域が延々と続く場合に「持替楽器」として使用される場合がある、展覧会の絵がその好例。
意外なところではバストランペットの代用品としてマーチングユーフォニアム(ユーフォニアムビューグル)が使用可能。
ホルストの惑星やマーラーの交響曲第7番にはユーフォニアムを使用するシーンもあるので興味があればぜひ一聴を。
2.吹奏楽(ブラスバンド編成・ウィンドアンサンブル編成)における「主旋律の補佐」「主旋律に抗う対旋律」「音色の深み・艶を存分に発揮する独奏担当」「サクソフォンの恋人役」として
…管弦楽における花形役者がヴァイオリンならば、吹奏楽における花形役者はクラリネットとトランペット、吹奏楽においては概ねこの二つの楽器がメインメロディを担当するのだが、
(吹奏楽コンクールの規定の影響もあり)管弦楽や軍楽と違って頭数を揃えられない吹奏楽において、メインメロディにパンチを効かせるために「クラリネット全員メインメロディにしました」みたいなことをやってしまうと、
その間クラリネットは他の仕事が一切できない。その上、管楽器には似たような音色の楽器が多人数で同じ旋律を演奏すると音色が濁ってしまうという厄介な性格がある。
ここでクラリネットと同じメインメロディを「音色の違う」ユーフォニアムにも演奏させることで音色の濁りを抑えた上に新しい音色を添えながら一段上の響きを付け、手の空いたクラリネットに他の仕事を任せることもできる、
まさに一石三鳥の活躍ができるすごい楽器なのだ。
また、他の楽器のメインメロディに添えるサブメロディなどはユーフォニアムの十八番、吹奏楽曲の有名どころではJ.バーンズの「アルヴァマー序曲」などは「二つのメロディのハルモニア」を存分に堪能できる好例と言えよう。
元が音色の響き・深み・艶が自慢のユーフォニアムは独奏だって十分にこなせる、やはりJ.バーンズの「リヴァーフェスト」の中間部の朗々とした独奏は、他の管楽器どころか弦楽器でも真似のできない、ユーフォニアムだけに許されたメロディと言っていいだろう。
同じ「実質吹奏楽専門楽器」の同志であるサクソフォンとの掛け合いなどは、吹奏楽でしか味わえない特権です。またまたJ.バーンズ(すいません)の「交響的序曲」の中間部、サクソフォンのソロにユーフォニアムのソロが応え、またサクソフォンのソロが返し、
徐々に絡み合いながらデュエットに昇華していくくだりは、聴き手と奏者の心が蕩ける名シーン。
ありとあらゆる楽器が使える(がユーフォニアムとサクソフォンはほとんど使われない)管弦楽や、その編成上楽器の音色を「音」ではなく「声」として扱える軍楽と異なり、吹奏楽には様々な制約がある代わりにユーフォニアム(とサクソフォン)を使う権利と義務がある。
吹奏楽曲の完成度の幾何かはユーフォニアム(とサクソフォン)に掛かっていると言っても過言ではあるまい、吹奏楽に携わる作曲者・編曲者・指導者・ユーフォニアム(とサクソフォン)の奏者の皆様、ゆめゆめ明察願います。
3.軍楽(変ロ調とヘ調で構成されたマーチングバンド編成・ト調で突っ切る構成のドラムアンドビューグルコー編成)における中低声の「厚みの補強」として
…現代におけるマーチングやドラムコーは、基本的には金管楽器と打楽器のみの編成で、金管楽器は全てトランペット型という特徴がある。
使用される主幹楽器は声域別で主に4種類、…以下マーチングバンド編成とビューグル編成で表記を分けます
★マーチングバンド編成
高音域がトランペット(ファンファーレトランペット)/中高音域がマーチングメロフォン/中低音域がマーチングバリトン/低音域が1.00マーチングチューバ
★ビューグル編成
高声域がソプラノビューグル(ヘラルドビューグル)/中高声域がメロフォンビューグル/中低声域がバリトンビューグル/低声域がコントラバスビューグル
…最低限の軍学を成立させるならこれだけあれば何とでもなります、ハイ。
でも、やっぱり音楽やるなら「張り」とか「厚み」とか欲しくなるのが人情ってモノで、それに適した楽器もあるんです!これを「補助楽器」と言うんですけど
☆マーチングバンド編成の補助楽器
高音域の補助にピッコロトランペット/ロングコルネット・中高音域の補助にフリューゲルホルン/マーチングフレンチホルン・中低音域の補助にマーチングトロンボーン/マーチングユーフォニアム・低音域の補助に0.75コンパクトチューバ/1.25-1.5フルボディチューバ
☆ビューグル編成の補助楽器
高声域の補助にソプラニーノビューグル/メゾソプラノビューグル・中高声域の補助にアルティーノビューグル/コントラアルトビューグル・中低声域の補助にテナービューグル/ユーフォニアムビューグル(声域としてはバスバリトンビューグル)・低声域の補助にバスビューグル/ブルドンビューグル
…という整合性は取れているにややこしい事になっています
ここで注目してもらいたいのは「ユーフォニアムビューグル」の存在感ですよ!
中低声域の厚みの補強を目的としてマーチングバリトン(バリトンビューグル)の半分をマーチングユーフォニアム(ユーフォニアムビューグル)に差し替える楽団が多く存在(アメリカで有名な"BlueDevils"とか)しており、
それだけ現代マーチング・ドラムコーの世界でもユーフォニアムの深みと艶のある音色に対する需要が高いことの証左と言えよう。
但し、マーチング・ドラムコーでは楽器の重量がそのまま演奏・演技への負担に直結するため、管弦楽や吹奏楽で使う普及品以上のユーフォニアムと違ってピストンは3本しかない(古いユーフォニアムビューグルに至っては2本のケースすらある)。
x.ユーフォニアムに不向きなシチュエーション
…太古から現代に至るまで万能な楽器が存在しなかったように、ユーフォニアムにも制限とか出来ないこととかはある。
代用楽器として使う場合、フレンチチューバの代替を想定している場合はユーフォニアムが音域の広さで負けているので代用できるか否かの判断は楽譜をよくよく解析して、もし不可能な場合はユーフォニアムとバス・チューバの併用を考慮する必要がある。
パレードやマーチングで「マーチング特化型のユーフォニアム」ではない「普通のユーフォニアム」を投入する場合、演奏時間が長くなればなるほど奏者への負荷は加速度的に大きくなる上に、「普通のユーフォニアム」を使用した場合にはその高機能が(高機能になればなるほど)仇になる可能性が高いので編成時には注意が必要。
じゃあコンバーチブルタイプ使えばいいじゃん、と思いますよね?ところがぎっちょん、コンバーチブルタイプはピストンが地面に垂直に立てられないからマーチング用途ばかりで多用するとピストンバルブが横減り(偏った摩耗)をして楽器の寿命を著しく縮めてしまうので「ご利用は計画的に」と言うことになる。
ビッグバンド形態(サクソフォン/トランペット/トロンボーン/リズムの編成)で極々希に使われることはあるけど、基本的にビッグバンドでは出番はないでしょう…。
何よりも「重厚で深みがある音程クロマティック調整式」のユーフォニアムは、裏を返せば「軽快で張りのある音程サーボ調整式」の用途を求められたらトロンボーンに太刀打ちできない(悔し涙)。
誤解を恐れず乱暴に総括すると、ユーフォニアムという楽器は「一発逆転のためのエキストラジョーカー」「隠す気のない隠し味」「大黒柱に刺さる梁」というところですか
日本食が世界で流行していますが、寿司に醤油がなかったら?天麩羅に塩がなかったら?煮物に味醂が使えなかったら?
ユーフォニアムの役割って、まさにその醤油であり塩であり味醂であると思うんです。
吹奏楽・軍楽ではなくてなならない楽器ですが、管弦楽でもっともっと採用してほしい、そのメリットはある、無限の可能性を持った楽器だと思います。
最後に一言
この元ネタ解説に、ひとつだけ「嘘」があります。何でって?
この記事を読んで下さった方に、その「嘘」を暴く過程でちょっとでもこの楽器を知って欲しいから…
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