ズィル のバックアップ(No.35)

シンバルは、金属板でできている体鳴楽器である。
２枚のシンバルを打ち合わせて音を出す「合わせシンバル(クラッシュ・シンバル)」と、１枚のシンバルをバチで叩いて音を出す「サスペンデッド・シンバル（通称”サッシン”）」の２種類が存在する。
ズィルが装備しているのは合わせシンバルである。サスペンデッドシンバルはクラシック以外にも、ポピュラー音楽などでドラムセットの一部としても使われる。
１発でオーケストラの演奏を飲み込むほどの爆発的ポテンシャルを持つ楽器であり、その責任は重大だが、出番は極端に少ない。
何十分にも渡る演奏の中でたった１度の出番のためだけに、シンバル奏者が舞台上にスタンバっていることなどザラにある。ドヴォルザークの「新世界より」とか。
他の打楽器と兼任することも多く「新世界より」では第３楽章のトライアングルとの兼任が可能である。それでも演奏開始から約２０分は暇になるが……
シンバル奏者には技術だけでなく、忍耐力や集中力などを備えた強靭なメンタルが要求されるのである。
「流石にシンバルだけ任される事ない」という声もあるが、これは演奏規模の話が絡む。　規模が小さいとシンバルのみ任されるのはほぼ無い。大きいと普通にある。
…そう、１曲の中にあるたった１発の為に何千発も叩いて練習するのである。

初心者はよく猿の人形の様に真正面に合わせて叩こうとするが、これをするとあの壮大な音は出ない。　ﾊﾞｽｯﾊﾞｽｯみたいな腑抜けた音になる。
理由はシンプルで「合わさった時、空気が中に篭もるから」。　その為に空気が篭もらない様にズラす、角度を変えて合わせる必要がある。
また合わせた後の余韻も相当重要で、そのコントロールは叩いた後のシンバルの向きや動かし方で大きく変わる。
個人差はあるが「叩く前の動作より叩いた後の動作の方が重要」という変わった楽器でもある。

シンバルの原型はズィル(zil)というトルコの民族楽器で、もともとトルコ民族の国家であるオスマン帝国の軍楽隊メフテルの楽器として使われていたが、
オスマン帝国のウィーン包囲によりヨーロッパに伝わり、クラシック音楽にも使われるようになる。
シンバル発祥の地・トルコでは現在もシンバルの生産が盛んに行われており、特に「ジルジャン」は400年の歴史を持つ老舗で、世界的なブランドとして有名である。
トルコ系シンバルを発明したのはアヴィディス・ジルジャン（シンバル職人という意味）であり、ジルジャン三世がアメリカに渡り工場を建てたのが現在のジルジャンである。
また、トルコに残された親戚がイスタンブールシンバルを作り、ジルジャン三世の息子兄弟の弟がジルジャンのカナダ工場を独立させたのがセイビアンシンバルである。
世界三大シンバルメーカーの大元は皆ジルジャンなのである。
因みにパイステはスイスのメーカー。
なお、トルコのものとは別に中国にもシンバルが存在しており、「チャイナ・シンバル」と呼ばれる。中央がへこんでいるのが特徴である。
中国の伝統芸能である京劇の効果音として使われるほか、ドラムセットに組み込まれることもある。
また中国には縁が鋭い刃になった「飛鐃」と呼ばれるシンバルもある。要するに楽器に偽装した隠し武器で、「飛」の字が付いている通り投擲して使う。ズィルが暗殺者風なのはそのためかもしれない。