―フレミッシュチェンバロとは―
フレミッシュチェンバロは、チェンバロの一種。チェンバロという楽器が普及するきっかけとなった、歴史あるチェンバロである。
(キャラクエでは「全てのチェンバロの原型とも言われる」と紹介されている)
そのフレミッシュチェンバロの一大ブランドがルッカース一族であり、彼女の「ルカ」の名前はルッカースから取られていると思われる。
チェンバロはピアノによく似た形の古典楽器であり、ピアノの先祖と思われがちだが、内部構造は全く異なる機構となっている。
ピアノは打弦楽器、つまり内部に張った弦を叩いて音を出す楽器だが、チェンバロは内部に張った弦をギターのようにかき鳴らして音を出す撥弦楽器である。
―チェンバロの歴史―
チェンバロは16世紀頃にイタリアからドイツ・フランスへ広まり、18世紀末からピアノの隆盛に伴って姿を消していった鍵盤楽器であり、
最古のものは14世紀とも言われる古典楽器である。
イタリアで作られたチェンバロは暖かい地方の針葉樹材で作られ、薄く軽い構造で音も明快。
鍵盤は1段で8フィート2列のレジスターを持つオーソドックスな形のチェンバロが作られた。
フレミッシュチェンバロは、現在のベルギー・オランダ辺りを指すフランドル地方で作られたものを指す。
アントワープで3~4世代に渡って工房を続けたルッカース一族は代表的な存在。
アルプス以北の広葉樹を素材とした重厚な作りをしており、音もよく伸びる性質を持っている。
イタリア式から時代もいくらか進んでおり、2段鍵盤や4フィートなど魔改造発展的な形のチェンバロを生み出している。
中でもルッカース工房のチェンバロは規格化されている点も特徴で、サイズや形状のみならず装飾まで細かく決められていた。
大理石のような模様の外装、木版印刷紙を貼った内装、蓋の内側に書かれたラテン語の格言、製作者のイニシャル入りローズ。
そして響板に描かれた花や鳥、果物の絵といった装飾がほぼ例外なく施されていた。
当時、花の絵を学術目的でなく観賞用に描いたのはフランドル地方の文化が発祥だったとも言われている。
高級なものには、蓋の内側に画家が絵画を描くこともあったという。
スキル名にあるVENUSTAS PICTURAは、ラテン語で「美しく彩色する」を意味しており、ルッカースの特徴をよく表している。
バロック時代は音楽が主に王侯貴族のものであったため、チェンバロは楽器であると同時に美術品として貴族のステイタスとされ、
チェンバロの響板に油彩の宗教画など美麗な絵画が描かれることもあったという。
ルカが貞淑で美術品をこよなく愛するのも、こうした背景が元ネタであろう。
時代が進んでフランス・ドイツ・イギリスへとチェンバロが広まると、フレミッシュの伝統を踏まえて各地で発展。
中期・後期バロックからロココへと音楽様式が移り変わるのに合わせてあり方を変えていく。
パリの製作者達は、ルッカースのチェンバロを改造するのも大事な仕事だったとか。
外装などの装飾も、室内装飾の変遷に合わせて華麗な芸術作品へと洗練されていった。
―チェンバロからピアノの時代へ―
やがてピアノの隆盛に伴い、チェンバロは姿を消していくが、チェンバロがピアノに取って代わられた理由としては、最も大きいのは表現力の差である。
ピアノは打弦楽器の構造により、ピアニッシモからフォルテシモ、要するに強弱の加減が自由自在である。
この点において、機械的な機構により弦をはじくチェンバロは、そこまでの自由な強弱をつけられなかった。
そのため、メロディー主体の音楽の流行という時代の趨勢もあり、その座をピアノに譲っていったのである。
また、チェンバロはピアノに比べて音量が小さいというイメージがあるが、必ずしもそうではない。
繊細なフレミッシュ・チェンバロは音量が小さく大規模な演奏に向かないのは事実だが、大教会で演奏するイタリアン・チェンバロは十分な音量があり、
さらにバッハの頃に作られたジャーマン・チェンバロは大編成のオーケストラでも問題ない程に力強い音量が出る。
やがて19世紀末から古楽演奏のためにチェンバロが復興され、当時のピアノ製作の技術を応用してチェンバロの改良が試みらた。
こうして作られたモダン・チェンバロ(伝統的な製法のチェンバロとは区別される)が昨今目にするチェンバロの大半であるが、
これらはさほど大きな音が出ないため、「チェンバロは音量が出ないからピアノに取って代わられた」というイメージがついたとも考えられる。
なお、チェンバロ(Cembalo)という名前はドイツ語。
英語ではハープシコード(harpsichord)、
仏語ではクラヴサン(clavecin)、
伊語ではクラヴィチェンバロ(clavicembalo)と呼ばれる。
検索するときは英語のほうがヒットしやすいかも。
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