ジョセフ=モーリス・ラヴェル(1875-1937)。
フランスの作家、「オーケストレーションの天才」「管弦楽の魔術師」「スイスの時計職人」と呼ばれた精巧な書法が特徴であり
古典的な形式を取りつつ革新的な要素を含めて作っていた作家。 その要素は様々な国の文化や俗謡等、時にはジャズや演奏者のキッカケ(右腕が無い)等多種多様。
代表曲はバレエ音楽「ボレロ」「ダフニスとクロエ」、「スペイン狂詩曲」、ピアノ曲「高雅で感傷的なワルツ」「マ・メール・ロワ」等。
ガールズシンフォニー関係ではリリーのスキル名となっている「亡き王女のためのパヴァーヌ」
アマティのスキル名となっている「道化師の朝の歌」(組曲「鏡」より)も代表曲であり、実装前から結構採用されていた。
他作者と比べ編曲されているものが多く、ピアノ曲を下地とした管弦楽版が多く存在する。
「魔術師」と呼ばれる所以はこの編曲に多く、同じ曲でもピアノ版と管弦楽版双方で違った雰囲気を出している。
ラヴェル事件
父親の音楽好きの影響を受け幼いころから音楽の勉強を始め、パリ音楽院に入るのだが
ここが主催で行われている「ローマ賞」の大賞に5回挑戦し最高成績が3位とあまり良い結果とは言い難いものだった。
…が問題となったのは5回目。ラヴェルにとっては年齢制限でラストチャレンジ。
既に名前が知られていたラヴェルは予選落ちで終わってしまったのだがこれに対して批評家から大きな波紋が生まれる。
またその時の本戦通過者にも問題があったせいもあって院長が辞職に追い込まれる事態にまで発展。
これがキッカケにより音楽院の改革が起きたと言われおり、後に「ラヴェル事件」と呼ばれるようになった。
なおラヴェル自身もこの事件で名が大きく知られることとなった。
フォーレ先生とドビュッシー
フォーレ先生…もとい「ガブリエル・フォーレ」はラヴェルとドビュッシーへの橋渡しとして重要な位置に付く作曲家&教育者。
実際にラヴェルはフォーレ先生の元、パリ音楽院で音楽を教えてもらっていた。
フォーレにフォーカスを当てると「ワーグナー」の存在が圧倒的すぎた頃になる。
当時ほぼ全員の作曲家はワーグナーの影響を受けており、いかにこれを超えるかというよりも
「どうすればワーグナーの影響を受けない楽曲を作れるのか」という所を模索していた。
しかし実際の所フォーレは上記に関係する大きな実績自体はないのだが、フォーレ自身がその工程で身につけた「和音の技術」は確かで
この技術を教育者としてラヴェルに教えており。 これが後に「職人」「魔術師」と呼ばれる技術へと変貌する。
ドビュッシーは今においてもラヴェルとよく比較される作曲家。時代もほぼ同じ位置に付いている。
ドビュッシーもまた古典な形式を取りながら独自の作曲で作り上げており、二人共「印象主義音楽」の代表格にあたる。
実際の所ラヴェルの父親がドビュッシーと縁があり、双方実力を認めるような仲であった。
…が、ある時を境に疎遠。 しかしその後も互いの曲を編曲しあっており良きライバルのような縁と言えよう。
そんな2人だが、曲風の違いは様々な言い様があり
・ラヴェルは「ロマン派の終点」、ドビュッシーは「現代音楽の始点」
・ラヴェルは「ごまかしが効かない」、ドビュッシーは「ごまかしが効く」
・ラヴェルは「機械のように精密」、ドビュッシーは「空気のように自由」
・ラヴェルは「作家」、ドビュッシーは「芸術家」
・ラヴェルは「人工的な美」、ドビュッシーは「自然的な美」
等言い出したらキリがない程ある。 なお共通して言えることは「高い表現力が演奏に必要」という事。
スイスの時計職人?
ラヴェル本人がスイスの時計職人だった…訳ではない。
またラヴェル自身はフランス・シブール出身であり、スイスとは関係が父親の出身だった程度である。 (但し作風は母(スペイン側)の影響が強い)
ストラヴィンスキーがラヴェルをそう称した事が理由。
ラヴェルの書法はモーツァルトらの古典的な方でありながら、様々な「要素」を取り込んだ作りであるものが多く
それらを混ぜた具合があたかも「懐中時計(の歯車)の様に精巧に作られている」という比喩で生まれたものであり
これが的を得ているので作曲家ではあるが「時計職人」と言われている。
またスイスは16世紀の頃から時計作りが盛んであり、当時も今も「高級時計」の名地。
その為多くの時計職人らが集結し世界トップクラスの技術を持つ。
それらのことから「世界トップクラスの精巧な技術を持った作曲家」と言ったニュアンスになると思われる。
開花の半生、苦悩の半生
高い技術と魔術の様な手法を持ったラヴェルだが、作曲家として病や周りの事に苦悩した時期が作曲家の後半に集中している。
最初は最愛の母が亡くなった事。 非常に悲しんだ結果創作意欲が極端に衰え「日ごとに絶望が深くなっていく」と綴られた手紙を友人に書いていた。
実際母が亡くなった後の新曲頻度は極端に落ちており一時は3年も出ていなかった事もあった。
次に最先端の音楽(印象主義音楽の事)を書いていたラヴェルだが複調・無調・アメリカのジャズ等が広まった結果
自身の曲が最先端でなくなった事から創作活動が更に落ちた事。
そして記憶障害や言語症に悩んでいた所に交通事故にあい症状が更に悪化。
スペルミスの頻出、文字が震え活字体になってしまう、手紙を1通書くのに辞書を使い1週間も掛かってしまう
手首がうまく動かせなくなる、得意だった水泳ができなくなる、言葉がスムーズにでなくなり痙攣も起こす様になってしまう。
ラヴェルの有名曲「ボレロ」はこの苦悩が出始めた頃に書いた代物である。
ここで特徴なのが「体が動かせない」方の事象が多い事。
それを示す事にいくつかの内容がありオペラ「ジャンヌ・ダルク」の構想に関して
「このオペラは完成させる事はできないだろう。頭の中では完成しており音も聴こえているが、それを書くことができない」
と述べたものがある。
ラヴェルの代表曲「ボレロ」のアレコレ
ラヴェルの代表曲を1つ上げるとなるとバレエ「ボレロ」を上げる人が多いであろう。
今では刑事ドラマを始めスペースオペラ等のアニメ、各種CM、フィギュアスケートのBGM等幅広い用途で使われいたり
他作者らの編曲バージョンのものも多いので「ラヴェルという作家は知らないがボレロなら分かる」という人もそこそこ居る。
この曲の特徴はなんといっても
・15分の間ずっと同じリズムを刻むスネア
・曲全体に対して掛かる「クレッシェンド」
・使ってるメロディは「2つ」のみ
というなかなか斬新すぎる要素。 しかしそれでも演奏時間によって表情豊かな表現を持っていたり
現代におけるテクノ等の「ミニマル・ミュージック」に近いものだった辺りが魔術師やら時計職人と言われる所以か。
ただ本人は「ここまで(一流のオーケストラ楽団が)演奏されるとは思わなかった」と驚きを隠せなかった。
バレエ曲の為シナリオが存在し、話を要約すると
「とある酒場で踊り子が準備運動していたら徐々に盛り上がってきた」というもの。 曲のまんまである。
元々スペインの民族舞踊を取り込んだものであり、製作時はトライアングルやらカスタネットも含まれていたらしい。 (完成品には削除されてる)
しかし、その製作工程で徐々に「スペイン」の要素を削るような調整を加えられたり、テンポが遅かったりとかでラヴェルがブチ切れた時もあった。
(但しラヴェル本人はBPM72に対して60前後を求めていた ともいう意見もあり一概に早いのを好んでいた訳ではない)
なおこの曲の精巧さは演奏者への負担も半端ない。 シンプルすぎるが故に非常に高い表現力や責任を求められるのだ。
特にずっと演奏しているスネア、序盤にあるフルート・クラリネット・ファゴット・オーボエの独奏
後半ぐらいから突然入り最高音域を含む独奏を求められるトロンボーンは相当のプレッシャーと責任を持つ事となる。
もし演奏する事になったら覚悟を決めよう。 ミスれば非常に目立つから。
高雅で感傷的なワルツ
スキル名でもあるこのワルツ。 シューベルトのワルツをモチーフとしたものと公言している。
8つの曲で構成され、7つの表情をそれぞれの短い7曲にし、それらの回想の1曲で成り立っている。
ラヴェルが所属していた「独立音楽協会」の演奏会のために作られた曲ではあるのだが
作曲者名を伏せて誰が作曲したかというのを探る用に作っており、本人は「7曲目で分かるのでは」と記されている。
結果は1曲目でモロバレするようなぐらいの精巧具合だったが、他者(エリック・サティやコダーイ・ゾルターン)と勘違いした人も多い。
ボイスで登場する「アデライード」はこの曲を含んだバレエの名前で正式名は「アデライード、または花言葉」。
1820年台のパリの高級娼婦「アデライード」を舞台にアデライード(女性)と2人の男性が描かれた話。
依頼を受けて書いたものだが約2週間と異常な速度で完成。更に「バレエの台本も書いたのではないか」とも噂されている(こちらは確証がない)。
またこのワルツのシナリオを知っているか否かで本楽曲のイメージがガラリと変わるとかどうとか…。
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| | アデライードのシナリオを見る
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舞台:1820年頃のパリ、高級娼婦アデライードのサロン(時:華やかな雰囲気に満ちた夜)
1:パーティーが行われており、その中をアデライード(人物)がオランダ水仙(or月下香)の香りを忍ばせ歩く。
2:青年Lorédan(ロレダン)が近寄り、アデライードへ自信なさげに金鳳花を捧げる
3:アデライードはロレダンが捧げた金鳳花を受け取る。
4:ロレダンとアデライードが一緒に踊っていると男爵が近寄り、ロレダンは狼狽する。
5:男爵はアデライードに向日葵とダイヤのネックレスをアデライードに贈る。
6:アデライードは男爵の誘いを断るが、ロレダンはこれに失望しアデライードを押し戻す。
7:プログラムの最後、男爵はアデライードへ共に(ワルツを)一緒に踊る事を誘うが彼女はそれを断りロレダンを誘う。 最初はためらったロレダンだが最終的に一緒に踊る。
8:パーティも終わり、再度近寄ってきたアデライードは男爵にアカシアを贈る。男爵は悔しがり退場。
ロレダンにはケシの白花を贈る。ロレダンは相当落ち込み自殺しようとするがアデライードは胸元から赤薔薇を出して告白をする。
「花言葉」も含めると行動の理由が分かるかもしれない…。 団長の技量が試される
これを本人が書いてたとすると、モニカが相当ロマンチストである一面が伺える。
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全く余談になるが、ラヴェルが作曲した曲の中にフランス語で「ワルツ」という「ラ・ヴァルス」なる曲がある。
不安な入りから名前に恥じぬ王道なワルツに変貌し、そこから一気に崩壊するその様子はある映画そのもの。 但しあちらのネタはこれではない。
…なお決して「高雅で感傷的なヴァルス」とか言ってはならない。 付け替えるならば「~円舞曲」にしておこう。
子供好きだった生涯独身
ラヴェルは子供好きだったようで、友人らの子供と遊ぶのを好んでいた。
それを印象付けるものとして その2人の子(ミミとジャン)の為に作ったものが「マ・メール・ロワ」というピアノ連弾曲。
おとぎ話をモチーフとしたものでそのネタが「眠りの森の美女」「親指小僧」「美女と野獣」とかとかなり有名なものばかり。
また経緯の影響か子供でも演奏できるようにラヴェルのピアノ曲では難度が低く仕上がっているのも特徴。
しかしそれでも子供には難しすぎたので別の方(大人)に初演をする事となった。
なおラヴェルには弟がいたが互いに生涯独身を貫き子供は居ない。 無論ラヴェルの血は途絶えることになった。
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