ヤンコピアノとはヤンコ鍵盤と呼ばれる形式によりデザインされたピアノ。
1882年、演奏家であり数理音響学者、発明家でもあったパウル・フォン・ヤンコによって開発された。
通常のピアノの鍵盤は
黒鍵 ド#レ# ファ#ソ#ラ#
白鍵 ド レ ミ ファ ソ ラ シ ド
という配置になっている。
しかし、それぞれの音の音階としての間隔は
ド(全音)レ(全音)ミ(半音)ファ(全音)ソ(全音)ラ(全音)シ(半音)ド
つまり
ド(半音)ド#(半音)レ(半音)レ#(半音)ミ(半音)ファ(半音)ファ#(半音)ソ(半音)ソ#(半音)ラ(半音)ラ#(半音)シ(半音)ド
となっており、全音で6段階、半音で12段階で表現することができる。
そこに着眼したヤンコは、どのような転調(楽譜全体を半音1~n個高い音で・低い音で演奏する)に容易に対応できる鍵盤配置を提案した。
6段目 ファ(全音)ソ(全音)ラ(全音)シ(全音)ド#(全音)レ#(全音)ファ
5段目 ミ(全音)ファ#(全音)ソ#(全音)ラ#(全音)ド(全音)レ(全音)ミ
4段目 レ#(全音)ファ(全音)ソ(全音)ラ(全音)シ(全音)ド#(全音)レ
3段目 レ(全音)ミ(全音)ファ#(全音)ソ#(全音)ラ#(全音)ド(全音)レ
2段目 ド#(全音)レ#(全音)ファ(全音)ソ(全音)ラ(全音)シ(全音)ド#
1段目 ド(全音)レ(全音)ミ(全音)ファ#(全音)ソ#(全音)ラ#(全音)ド
通常の鍵盤楽器では、転調すれば運指そのものを変えなければならなくなり、演奏技術や譜面と楽曲への理解度が要求されることになるが、
この「ヤンコ鍵盤」と呼ばれる配置では、1~2段目で演奏している曲を、同じ運指のまま2~3段目で演奏すれば、全体を半音上に転調させることができる。
半音6個めまではそのまま上の段へ移動していき、半音7個高くなった場合は1段目の黒鍵盤からスタートすれば、やはり同じ運指のままでの演奏ができる。
(ギターなどでいうところの「カポタストをはめた」ような演奏が容易になる)
和音やアルペジオ(和音コードの分散演奏)についても、1オクターブ以上左右に広く指を広げられなければならない難曲が、上下の同時押しや移動で裁くことができる。
それまで当たり前であった「普通の鍵盤楽器の鍵盤の配置」を、科学的観点から論理的に再構築したこの鍵盤配置は、
しかし世間に受け入れられるどころか音楽家、音楽教師、楽譜出版社などからの猛反対にあい(一部楽団では使用禁止さえされた)、
また、論理的ではあってもそれまでの音楽家の運指の常識をあまりに破壊しすぎる演奏の違和感により、
世間に受け入れられることなく、「音楽史の珍発明」の1つとして記録されるにとどまることとなった。
現在は一部の博物館などに収蔵されるのみとなっている。
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